2025/09/24
最近、愛犬や愛猫の「歩き方がおかしい」「排尿や排便の様子に違和感がある」と感じたことはありませんか?「年を取ったから仕方ない」と見過ごされがちなこうした変化の裏に、実は変形性脊椎症という病気が潜んでいる場合があります。
変形性脊椎症は、犬や猫の背骨に起こる構造的な異常によって、痛みや神経の障害を引き起こす病気です。進行すると歩行困難や排泄障害といった深刻な症状が現れることもあります。しかし、レントゲン検査を活用すれば比較的早期に発見することが可能です。
今回は犬や猫の変形性脊椎症について、特徴や考えられる原因、診断方法、そして当院が実践する総合的な治療アプローチなどをご紹介します。
■目次
1.変形性脊椎症ってどんな病気?
2.原因
3.診断方法
4.治療方法と森田動物医療センターの総合アプローチ
5.ご自宅でできるサポートと予防の工夫
6.まとめ
変形性脊椎症ってどんな病気?
変形性脊椎症とは、脊椎(背骨)を構成する関節や靭帯が長い時間をかけて変形・硬化していくことで、神経や関節の可動域に障害が生じる慢性疾患です。犬にも猫にも発症し得る病気であり、特にシニア期に差し掛かる年齢の子に多く見られます。
この病気の大きな特徴は、進行がゆるやかであるため「ただの老化」と思い込んでしまいやすいことです。しかし、放置すると徐々に日常生活に支障をきたすような症状が現れてくることがあります。たとえば、以下のようなサインが見られることがあります。
・歩行困難(ふらつき、足を引きずる、立ち上がりにくい、動きたがらない)
・排泄障害(トイレの失敗が増える、排泄の姿勢がうまく取れない)
こうした症状は、犬や猫にとって大きなストレスになります。そのため、飼い主様が「何かおかしい」と感じた時点で、できるだけ早く動物病院を受診することが大切です。
原因
変形性脊椎症の発症には、以下のようにさまざまな要因が関係しています。
・加齢に伴う自然な骨や靭帯の変性
・椎間板の変性や摩耗
・外傷(落下やぶつけたことによる損傷など)
・肥満による負荷
・遺伝的な要因
特に大型犬や活発に運動をする犬種では、日常的に背骨へ大きな負荷がかかるためリスクが高いとされています。ただし、これは犬に限った話ではありません。猫や小型犬でも十分に発症する可能性があるため、体型に関係なく注意が必要です。
また、「肥満が原因になる」と言われることもありますが、痩せていても発症するケースは少なくありません。一度変形してしまった背骨の構造は元には戻せないため、発症前の予防と、早期発見がとても重要になります。
診断方法
変形性脊椎症の診断には、いくつかの検査を組み合わせることが必要です。症状や進行度は個体によって異なるため、丁寧な評価を行うことが診断精度の向上につながります。当院では、以下のようなステップで診断を行っています。
・身体検査:触診により背骨周辺の痛みや違和感を調べます。
・歩行観察:診察室内を歩かせ、ふらつきや姿勢の異常を確認します。
・レントゲン検査:骨の変形や骨棘(トゲ状の骨)の有無を可視化します。
・神経学的検査:必要に応じて反射や神経反応を評価し、神経系への影響を確認します。
これらの検査をもとに、重症度を段階的に評価する「COAST(Canine OsteoArthritis Staging Tool)」という指標を参考にして、治療方針を立案しています。
なお、当院ではほかの疾患の検査中に偶然この病気が見つかるケースも多く、見逃されがちな初期症状にも注意を払っています。「ほかの動物病院では異常がないと言われたけれど、やはり様子がおかしい」といった飼い主様のご相談にも、専門的な視点から対応しております。
分からないことがありましたら、お気軽にご相談ください。
治療方法と森田動物医療センターの総合アプローチ
変形性脊椎症は、構造的な変形を元に戻すことが難しいため、「完治させる」ことが目的ではなく、「痛みを和らげ、進行を抑え、生活の質を保つ」ことが治療の基本方針です。
当院では、ひとつの方法に頼らず、複数の治療法を組み合わせた総合的なアプローチを大切にしています。代表的な治療方法は以下の通りです。
◆内科的治療
長時間効果のある疼痛管理薬や消炎鎮痛薬を使用し、痛みを抑えます。
◆東洋医学的アプローチ
鍼治療により血行を促進し、痛みの軽減を図ります。
◆物理療法
レーザー治療によって炎症を抑制し、関節の機能回復をサポートします。
◆生活指導
体重管理や適切な運動制限、環境の整備など、飼い主様にご協力いただくケアも大切な治療の一部です。
これらの治療を組み合わせることで、手術が適さない子でも症状の改善が期待できます。実際に、排尿や排便が困難だった猫が、痛みを取り除くことでスムーズに排泄できるようになったケースや、階段を登れなくなっていた犬が再び軽快に動けるようになったケースもあります。
当院では「その子に合った治療法を見つけること」を何よりも大切にしています。飼い主様との対話を通じて、その子の性格や生活環境まで考慮した、オーダーメイドの治療計画をご提案いたします。
ご自宅でできるサポートと予防の工夫
動物病院での治療に加え、ご家庭でのケアや予防も非常に重要です。以下のような工夫で、関節への負担を軽減し、発症や進行のリスクを抑えることができます。
◆環境の整備
滑りにくい床材やマットを使い、関節にかかる負担を軽減する環境づくりを行いましょう。
◆運動管理
適度な運動で筋力を維持しましょう。ただし、ジャンプや階段の昇り降りなど、関節に強い負荷がかかる動きは避けてください。
◆食事管理
肥満防止のための食事管理は、毎日の生活の中で意識して取り組むことが大切です。
◆定期的に健康診断を受ける
定期的な健康診断により、初期段階での変化を捉えることが可能です。特にシニア期に入った犬や猫では、半年~1年に一度の受診をおすすめします。
日々の生活の中で、「何となくいつもと違う」と感じた小さな違和感を見逃さないことが、犬や猫の健康を守る第一歩になります。
まとめ
犬の変形性脊椎症は、見た目では分かりにくく、老化と勘違いされやすい病気です。しかし、早い段階で気づき、適切なケアを行えば、犬や猫の痛みを和らげ、生活の質を大きく改善することができます。
当院では、西洋医学に加え、東洋医学や物理療法、生活指導を組み合わせた総合的な治療アプローチを実施しています。これまでにも、「歩けなかった子が歩けるようになった」「排尿困難が改善した」といった多くの症例があります。
「年のせいかもしれない」と思っていた症状が、実は病気のサインである可能性があります。大切な愛犬や愛猫が、シニア期も快適に暮らせるよう、私たちが全力でサポートいたします。少しでも気になる症状がありましたら、どうぞお気軽に当院までご相談ください。
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埼玉県川口市・さいたま市(浦和区)・越谷市を中心に診療を行う
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<参考文献>
Face validity of a proposed tool for staging canine osteoarthritis: Canine OsteoArthritis Staging Tool (COAST) – ScienceDirect
Proposed Canadian Consensus Guidelines on Osteoarthritis Treatment Based on OA-COAST Stages 1–4 – PMC (nih.gov)