2025/05/09
さっきまで元気だった愛犬が「急にぐったりしている」「突然吐き始めた」といった様子を見せると、「どうしたんだろう…」と不安を感じる方も多いのではないでしょうか?
犬の体調変化にはさまざまな原因がありますが、中には命に関わる緊急性の高い病気が隠れている場合もあります。その代表的な病気のひとつが「急性腎不全」です。
急性腎不全とは、数時間から数日の短期間で腎機能が急激に低下し、体内の老廃物や毒素を十分に排出できなくなる状態を指します。この病気は進行が早く、治療のタイミングが遅れると命に関わる危険な病気です。
今回は犬の急性腎不全について、症状や原因、治療法、そして日常生活で飼い主様が気をつけるべきポイントなどを、獣医師の視点から解説します。
■目次
1.犬の急性腎不全の緊急度チェックリスト
2.急性腎不全を引き起こす主な原因
3.犬種別・年齢別の注意点
4.診断方法
5.治療方法
6.ご家庭でのケアと予防法
7.まとめ
犬の急性腎不全の緊急度チェックリスト
犬の急性腎不全は、初期段階で適切な治療を受けることで、回復の可能性が高まります。以下のような症状が見られた場合は、すぐに動物病院を受診してください。
・突然元気がなくなる
・食事を全くとらなくなる
・繰り返し嘔吐する
・下痢が続く、脱水症状が見られる
・尿の量が極端に減る、または排尿が全く見られない
・口臭がきつくなる、口内炎ができている
・けいれんや意識の混濁がある
・苦しそうに呼吸している
これらの症状は、腎臓の働きが急激に低下しているサインかもしれません。放置すると体内に老廃物が蓄積し、命に関わる可能性があります。
また、様子を見ながらも、早めに動物病院の受診を検討してほしい症状としては、以下が挙げられます。
・以前より元気がない日が続く
・食欲が落ちているが、少しは食べる
・尿の量が多い、または少なすぎる
・おしっこの色が濃い、またはにおいが強い
・体重が急に減少している
急性腎不全を引き起こす主な原因
犬の急性腎不全は、いくつかの異なる原因によって引き起こされますが、主に以下の3つのタイプに分類されます。
①腎前性(血流低下によるもの)
腎臓に十分な血液が送られなくなることで腎機能が低下するタイプです。原因としては、外傷や手術による大量の出血、重度の脱水、深い麻酔、心臓疾患などがあります。これにより腎臓が一時的に機能不全を起こすことがあります。
②腎性(腎臓自体の障害によるもの)
腎臓の組織自体が直接ダメージを受けることによって発症します。原因としては、細菌感染(特にレプトスピラ症)、薬物中毒(腎毒性のある薬剤や除草剤)、重金属の摂取、毒性のある植物の誤食、免疫異常による腎炎などが挙げられます。
③腎後性(尿路閉塞によるもの)
尿の排泄ができなくなることで、腎臓がダメージを受けてしまうタイプです。尿石症や膀胱・尿道の腫瘍、外傷による尿路の狭窄などが原因で起こります。
こうした分類とは別に、日常生活の中で思わぬ誤食が原因となり、急性腎不全を引き起こすケースも少なくありません。特に注意が必要な中毒物質については、以下のようなものが挙げられます。
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<特に注意すべき中毒物質>
犬にとって危険な物質には、主に以下のようなものがあります。
・ブドウ(レーズン)
・ユリ科の植物
・アセトアミノフェンを含む人用の薬
・除草剤
・鉛や水銀といった重金属
・保冷剤や不凍液(エチレングリコール)
・痛み止め等の薬 など
これらを誤食することにより、急性腎不全を引き起こす場合があります。
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犬種別・年齢別の注意点
急性腎不全はどんな犬でも発症する可能性がありますが、犬種や年齢、体質によって注意すべき点が異なります。
<小型犬の場合>
体が小さいぶん、脱水や中毒物質の摂取量が少量でも重篤化しやすい傾向があります。拾い食いや誤飲にも注意が必要です。
<若齢犬の場合>
免疫機能が未発達な若齢犬は、感染症や誤飲のリスクが高まります。体調の変化を見逃さないためにも、日ごろからこまめに様子を観察することが大切です。また好奇心が旺盛な場合、誤食による中毒の可能性もあります。
<高齢犬の場合>
年齢とともに腎機能が徐々に低下していることが多く、腎臓の予備機能が低い場合急性腎不全から重篤な慢性腎臓病へ移行するリスクもあります。症状が分かりにくいため、定期的な健康診断が重要です。
<体質的に注意が必要な犬種>
遺伝的に尿石ができやすいダルメシアンやミニチュア・シュナウザーなどの犬種では、腎後性の腎不全に特に注意が必要です。
診断方法
犬の急性腎不全を正確に診断するためには、以下のような複数の検査を組み合わせて総合的に評価を行います。
■問診
飼い主様には、いつからどのような症状が見られたのかに加え、最近食べたものや飲んだ薬、外での行動などについても、できるだけ詳しく伺います。
■血液・尿検査
血液検査では、BUN(尿素窒素)やクレアチニンといった腎機能の指標のほか、電解質(ナトリウム・カリウム・リン)なども確認します。尿検査では、尿比重や尿タンパク、糖の有無を調べて腎機能の状態を把握します。
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■画像診断
超音波検査やレントゲン検査により、腎臓の大きさや形、構造の異常、尿路閉塞の有無、結石の存在などを確認します。
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<来院前に準備しておくと良い情報>
・排尿の有無や回数
・嘔吐の頻度
・食欲の状態
・直前に食べた物
・与えた薬の種類やタイミング など
これらをできる限り記録しておくことで、診断がスムーズになります。また、些細な情報でも獣医師にとっては重要な手がかりになることがあるため、気づいた点はメモしておくと安心です。
もし何か疑問があれば、診察時に遠慮なくご相談ください。
治療方法
急性腎不全は、早めの対応がとても大切です。基本的には入院のうえ、原因に応じて以下のような治療を行います。
<保存療法(点滴による輸液治療)>
脱水を改善しながら、電解質やpHのバランスを整え、体にたまった毒素や老廃物の排出を促します。これにより、ダメージを受けた腎臓の尿細管が回復するのを待ちます。
<透析治療>
重症の場合や保存療法だけでは回復が見込めない場合、血液透析や腹膜透析といった治療が検討されます。ただしこれらは専門設備のある限られた施設でのみ実施可能です。
<原因別の治療アプローチ>
感染症には抗生物質を用いた治療、尿路閉塞が原因であれば、外科的処置やカテーテルによる排尿補助が必要です。また、中毒が疑われる場合には、解毒処置や吸着剤の投与などを検討します。
迅速に適切な治療を行うことで、腎機能が回復する可能性はあります。ただし、もし十分に回復しなかった場合には、慢性腎臓病へと進行する恐れもあります。
そのため、症状が落ち着いて元気になったように見えても、その後の経過をしっかりと見守ることが大切です。
ご家庭でのケアと予防法
急性腎不全を防ぐためには、日常生活の中でのちょっとした工夫が欠かせません。たとえば、脱水しないようにこまめに水分補給をさせたり、室内の温度を適切に保ったりしながら、愛犬の体調の変化にいち早く気づけるよう、日頃からよく観察することを心がけましょう。
また、中毒の原因となるものから犬を守るための対策も欠かせません。人の食べ物や薬の中には、犬にとって有害な成分を含むものが多くあります。特にブドウやチョコレート、ユリの花などは、誤って口にすると命に関わる危険性があります。こうしたものは、犬の手の届かない場所にしっかりと保管しておきましょう。
さらに、腎機能の低下は初期には目立った症状が見られないため、年に1〜2回の健康診断を受けておくことが、早期発見と予防につながります。
もし愛犬の様子に異変を感じた場合には、「いつから何回吐いたか」「おしっこの量や色」「食欲の変化」など、日々の様子を記録しておくと、動物病院での診察時にとても参考になります。
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まとめ
犬の急性腎不全は、短期間で腎機能が低下し、放置すると命に関わる非常に危険な病気です。治療開始のタイミングが予後を大きく左右するため、早期発見・早期治療が何よりも重要です。
犬種や年齢に関係なく発症のリスクがあるため、日頃から愛犬の様子をよく観察し、「いつもと違う」と感じたら迷わず動物病院を受診してください。
当院では緊急時の対応体制も整えており、検査・入院・治療まで一貫して行うことが可能です。少しでも不安なことがあれば、お電話やWEB予約でお気軽にご相談ください。
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