2026/08/26
「うちの猫が最近くしゃみをよくする」「目やにや涙が多くて、目を気にしている」……
そんなご相談を、当院ではとても多くいただきます。実はこうした症状の背景に、「ネコヘルペスウイルス1型(FHV-1)」という、猫にとても身近なウイルスが隠れていることが少なくありません。
猫ヘルペスウイルス感染症は、いわゆる「猫風邪」の代表的な原因の一つで、鼻水やくしゃみといった風邪のような症状に加えて、結膜炎や角膜(黒目の表面)の傷など、目のトラブルを引き起こすことがあります。目の症状だけが前面に出ることも多く、原因がこのウイルスだと気づかれないまま治療が長引いてしまうケースも見受けられます。

今回は、猫の目の病気の背景にしばしば潜んでいる「猫ヘルペスウイルス感染症」について、原因・症状・治療法・ご家庭での注意点を中心にご説明します。
■目次
1.なぜ猫ヘルペスウイルスに感染するの?|感染経路と症状を繰り返す理由
2.どんな症状が現れるの?|くしゃみや目のトラブルに注意
3.猫ヘルペスウイルス感染症はどう治療するの?
4.症状の再発や感染を防ぐには?|ご家庭での注意点
5.まとめ|繰り返す目やにや涙は早めに動物病院へ
なぜ猫ヘルペスウイルスに感染するの?|感染経路と症状を繰り返す理由
猫ヘルペスウイルス感染症は、「ネコヘルペスウイルス1型(FHV-1)」というウイルスの感染によって起こります。
感染している猫のくしゃみや目やに、よだれなどの中にウイルスが含まれており、これを他の猫が鼻や口、目から取り込むことで感染が広がります。特に免疫力が未熟な子猫や、多頭飼育の環境では感染が広がりやすいことが知られています。
このウイルスの大きな特徴は、一度感染すると症状が治まった後も体内に潜んで住み着いてしまうという点です。つまり、多くの感染猫は一生涯ウイルスを体内に持ち続ける「キャリア」になります。
普段は症状を出さずおとなしくしていますが、
・引っ越しや新しい家族(動物)が増えるなどの環境の変化
・他の病気にかかる
・出産や授乳
・ステロイド剤の使用
といったストレスがきっかけでウイルスが再活性化し、症状がぶり返すことがあります。一度治ったように見えても、体調やストレスの状態によって繰り返し症状が出るのが、このウイルスの厄介なところです。
どんな症状が現れるの?|くしゃみや目のトラブルに注意
猫ヘルペスウイルス感染症でみられる主な症状は次のとおりです。
<風邪のような症状>
・くしゃみ
・鼻水
・発熱
・元気がない
・食欲不振
<目に現れる症状>
・目やに
・まぶたの腫れ
・結膜(白目の部分)の充血や腫れ
・角膜(黒目の表面)の傷
・涙の量が増える
・目を痛がってまばたきをする、開けにくそうにする
軽症であれば2〜3週間ほどで自然に落ち着くこともありますが、角膜に傷ができると治療が必要になるケースが多くあります。特に子猫では、まぶたが開く前後の時期に感染すると、まぶたの内側同士や、まぶたと角膜がくっついてしまう(瞼球癒着)ことがあり、重症化すると視力に影響することもあるため注意が必要です。
また、繰り返し炎症が起こることで、角膜が濁ったり黒っぽく変色したりする、涙の分泌が悪くなる(ドライアイ)など、慢性的な目のトラブルにつながることもあります。
中には「角膜黒色壊死症」(角膜の表面が茶色〜黒色に変性していく病気)や「好酸球性角結膜炎」(角膜や結膜に白い膜のような組織ができる病気)のように、猫ヘルペスウイルスの感染が発症に関わっていると考えられている病気もあります。
猫ヘルペスウイルス感染症はどう治療するの?
猫ヘルペスウイルスそのものを完全に体内から排除する治療法は、現在のところありません。そのため、治療の目標は、ウイルスの活動を抑えて症状を軽減し、二次的な細菌感染や角膜の傷の悪化を防ぐことになります。
主な治療としては、
・抗ウイルス薬(飲み薬や点眼薬)によるウイルスの増殖抑制
・細菌の二次感染を防ぐための抗菌点眼薬
・角膜に傷がある場合は、保護・修復を助ける点眼薬
・L-リジンやインターフェロン製剤など補助的なもの
などを、症状や重症度に応じて組み合わせて行います。なお、ステロイド剤(特に点眼)はウイルスの再活性化を招くおそれがあるため、猫ヘルペスウイルス感染が疑われる場合は使用に注意が必要です。
自己判断で他の猫や以前処方された目薬を使うのは避け、必ず動物病院で診断を受けたうえで、その子の状態に合った薬を処方してもらいましょう。
角膜の傷が治りにくい、繰り返し目のトラブルが起こる、といった場合には、詳しい検査や専門的な治療が必要になることもあります。
症状の再発や感染を防ぐには?|ご家庭での注意点
・症状が軽くても、自然に治るだろうと様子を見すぎないようにしましょう。特に角膜に傷がある場合は、悪化すると治療期間が長引いたり、傷跡が残ったりすることがあります。
・一度治療をして症状が落ち着いても、ストレスがかかると再発することがあるウイルスです。引っ越しや来客、新しい猫のお迎えなど、環境が変わるときは注意して様子を見てあげてください。
・多頭飼育のご家庭では、感染している猫と他の猫の食器やトイレを分けるなど、感染拡大を防ぐ工夫も大切です。
・目やにがひどいときは、清潔なコットンやガーゼをぬるま湯で湿らせて優しく拭き取ってあげると、猫も楽になります。ただし、無理に取ろうとして目に負担をかけないよう注意してください。
・子猫の目やにや目の開きにくさは進行が早いことがあるため、様子を見ずに早めに受診することが、重症化を防ぐ一番のポイントです。
・定期的なワクチン接種は、感染そのものを完全に防ぐことはできませんが、症状を軽くする効果が期待できます。
まとめ|繰り返す目やにや涙は早めに動物病院へ
猫ヘルペスウイルス感染症は、多くの猫が経験する身近な感染症でありながら、結膜炎や角膜潰瘍など目の症状を引き起こし、時に繰り返し再発するやっかいな病気です。一度感染するとウイルスが体内に潜み続けるため、完全に治すというよりも「症状をコントロールしながら、うまく付き合っていく」という視点が大切になります。
猫の目やにや涙、くしゃみなどが続くときは、猫ヘルペスウイルスが関わっている可能性もあります。気になる症状がありましたら早めに当院までご相談ください。
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