2026/02/09
「昨日まで元気だったのに、急に立てなくなった」「ふらついて同じ方向にぐるぐる回っている」。愛犬にこうした症状が突然表れたら、飼い主様が強い不安を感じるのは当然です。特にシニア犬の場合、「脳の病気ではないか」「このまま歩けなくなってしまうのでは」と心配される方が多く、思わずパニックになってしまうこともあります。
実は、こうした症状の背景に関わっている可能性があるのが「前庭疾患」と呼ばれる状態です。前庭疾患は、症状の表れ方が急で目立ちやすく、飼い主様が驚かれることの多い病気です。しかし、原因によっては適切な治療や経過観察によって、回復が見込める場合もあります。
そこで今回は犬の前庭疾患について、症状や原因、診断方法、ご自宅でのケア方法などをご紹介します。

■目次
1.前庭疾患とは?
2.症状
3.原因
4.診断方法
5.ご自宅でのケア方法・すぐに受診が必要なサイン
6.まとめ
前庭疾患とは?
「前庭」とは、犬がまっすぐ立ったり、ふらつかずに歩いたり、頭の動きに合わせて視線を安定させたりするための仕組みです。具体的には耳の奥や脳にある神経のネットワークが関与しており、いわば「体のバランス感覚を司る土台」のような役割を担っています。
この前庭の働きに異常が起こると、犬はふらついたり、立てなくなったり、目が揺れたりするようになります。つまり「前庭疾患」とは、バランスを取る機能に障害が生じた状態の総称であり、ひとつの病気の名前ではありません。
特にシニア犬では、加齢とともにこの前庭機能に変化が起こりやすいため、前庭疾患のような症状が表れることがあります。ただし、年齢だけで判断せず、背景にある原因をしっかり見極めることが大切です。
症状
前庭疾患が疑われる場合、以下のような様子が見られます。
・立とうとしても立てない、歩こうとしてもふらついて倒れてしまう
・同じ方向にぐるぐると回り続ける(旋回)
・目が小刻みに揺れているように見える(眼振)
・首が傾いたまま戻らない(斜頸)
・吐き気があり、食欲が落ちることもある
このように、前庭疾患の症状は見た目にとても目立ち、突然はっきりと表れるのが特徴です。症状そのものは激しく見えますが、原因によっては数日から数週間で自然と改善していくケースもあります。
ただし、その一方で、他の病気が隠れている可能性もあるため注意が必要です。
原因
前庭症状の原因は、主に以下のように複数存在し、ここを丁寧に切り分けることが、治療方針や予後を左右します。
<特発性前庭疾患(原因不明)>
シニア犬に最も多いとされるタイプで、ある日突然症状が表れます。検査をしても明確な原因が特定できないことが多いですが、ほとんどのケースでは数日から数週間で自然と症状が改善していきます。また、回復が見込めることから「症状は派手でも治る可能性がある」と言われることもあります。ただし、最初から特発性と決めつけず、他の病気を除外するための検査は必要です。
<甲状腺機能低下症(内分泌疾患)>
甲状腺ホルモンは、代謝や活力に大きく関与している重要なホルモンです。これが不足すると、元気の低下や被毛の変化などのほか、神経系の症状としてふらつきが出ることがあります。なお、血液検査で確認でき、治療により改善が期待できる病気であるため、見逃さないようにしましょう。
▼犬の甲状腺機能低下症の原因や治療方法についてより詳しく知りたい方はこちら
<中耳炎・内耳炎(耳の奥の炎症)>
耳のかゆみやにおい、汚れが見られる犬では、外耳炎が中耳や内耳に進行し、三半規管などの平衡感覚に関わる部位が障害を受けて前庭症状が出ることがあります。そのため、定期的に耳を清潔に保つことが大切です。
<脳疾患(中枢性の原因)>
発生頻度は高くないものの、シニア犬では脳腫瘍や脳梗塞、脳炎などが原因となることもあります。これらの病気では、前庭症状に加えて、意識の混濁や痙攣、視覚障害など、他の神経症状を伴うことが多く、必要に応じて画像検査(MRIやCT)などで脳の評価を行うこともあります。
このように、同じような症状であっても、原因はさまざまです。そのため、丁寧な診察と検査によって、正確な原因を切り分けていくことが欠かせません。
診断方法
前庭症状の診断において最も重要なのは、まず詳しい問診を行うことです。その際、飼い主様からの以下のような情報は、診断の大きな手がかりになります。
・症状が始まった時期やきっかけ
・症状の変化
・吐き気の有無
・耳を気にしていないか
・食欲や元気の状態
問診後、以下のような検査を行います。
◆神経学的検査
前庭の異常がどの部位からきているのかを確認します。外耳や中耳、内耳、または中枢(脳)といった異なる可能性を評価していきます。
◆血液検査
甲状腺機能を含む全身の健康状態をチェックし、内分泌疾患の有無を調べます。
▼犬や猫の血液検査についてより詳しく知りたい方はこちら
◆触診
耳の中の状態を丁寧に確認し、必要であれば中耳や内耳の評価を行うために追加検査を検討します。
ほかにも、症状の重さや進行の仕方によっては、画像診断(MRIやCT検査)を通じて脳や耳の奥の構造を詳しく調べることもあります。
ご自宅でのケア方法・すぐに受診が必要なサイン
ご自宅では、以下のように犬が安全に過ごせる環境を整えてあげることが大切です。
<転倒やケガを防ぐ環境を整える>
無理に立たせたり歩かせたりすると、転倒してケガをするおそれがあります。そのため、滑りやすいフローリングにはマットを敷き、階段や段差のある場所には近づけないようにしましょう。
<食事や水分の取りやすさに配慮する>
食事や水が摂りづらそうな場合には、器の位置を少し高くする、食器を身体の近くに置いて移動を減らすなどの工夫も有効です。ただし、吐き気が強いようであれば、無理に食べさせようとせず、まずは落ち着いて体勢を整えてあげることが大切です。
また、以下のような症状が見られる場合は、早めに動物病院に連絡してください。
・症状が強く、改善の兆しが見られない
・ふらつきや旋回が悪化している
・元気や食欲が戻らない
・意識がぼんやりしている、反応が鈍い
これらは、特発性ではなく他の治療が必要な原因が隠れている可能性もあるため、早期の診察や検査が重要になります。
まとめ
前庭疾患は見た目のインパクトが非常に強いものの、原因によっては回復が見込める病態です。ただし、「年齢のせいだろう」と決めつけてしまうと、甲状腺機能低下症や耳の奥の炎症、脳の病気など、治療可能な疾患を見逃してしまうおそれがあります。
そのため、前庭症状が見られた場合は、まず冷静に状況を観察し、なるべく早めに動物病院を受診することが大切です。飼い主様と動物病院が協力して原因を丁寧に探ることで、愛犬に合った適切な治療やケアにつながりやすくなります。急な変化が見られたときは、一人で悩まず、早めにご相談ください。
また、当院では前庭症状の診断や治療に必要な検査体制を整えており、飼い主様と一緒に安心して過ごせるサポートを行っております。気になる症状がある際は、いつでもお気軽にご相談ください。
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埼玉県川口市・さいたま市(浦和区)・越谷市を中心に診療を行う
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